解決すべき課題

主要穀物生産の鈍化の主な原因は、それを支える現在の品種が栽培化の過程で環境ストレスに対する多くの適応能を失ってきたことによると考えられます。問題解決には、養水分欠乏などの劣悪環境でも栽培できる強靭な作物の開発が急務です。

上記問題解決を目指して2024年度までに課題1からは野生植物のストレス耐性メカニズム情報が得られ、課題4によって遺伝子情報データベースとして収集されました。また課題3では複数の遺伝子領域を同時に正確に編集する技術の高効率化を達成しました。課題2においてはサイバー空間で予測した乾燥ストレス応答に関わる遺伝子機能を、フィジカル空間で検証した結果、野生型と比較して20%の種子重の増加が観察されたことから、作物デザイン技術のプロトタイプが完成しました。2025年度からは前半5年間で構築した作物デザイン技術の高度化、多様化を目指して、以下の4つの課題を設定します。

  項目1:干ばつ耐性CPSの精度向上と高温ストレスへの適用
  項目2:低栄養複合ストレス耐性に適用できるCPSの開発
  項目3:遺伝子発現の人為的な制御を可能にするCPSの開発
  項目4:コムギに適用可能なCPSの開発

これらを統合して、「デジタル作物デザインセンター」を2030年までに始動させます。

 


項目1:「干ばつ耐性CPSの精度向上と高温ストレスへの適用」

前半5年間で構築したサイバーフィジカルシステム(CPS)を用いた作物デザイン技術の予測精度の向上や高度化を通して、本技術の国内外における育種現場での実装化を目指します。

実施課題(担当機関)

 


項目2:「低栄養複合ストレス耐性に適用できるCPSの開発」

CPSのプロトタイプを基に低栄養複合ストレス耐性に適用できるCPSを開発することを目指します。本目的を達成するために、低栄養応答を学習するためのデータ(遺伝子発現データ)を収集し、MS前半期間で構築したサイバーフィジカルシステム(CPS)を拡張します。
また、学習の効率化には、優れた低栄養耐性を示している系統や品種(有用素材)を用いることが重要であるため、前半5年間の成果である有用素材等を対象として窒素、リン、カリウム、硫黄欠乏応答の学習データを収集しCPSを精緻化します。

実施課題(担当機関)

 


項目3:「遺伝子発現の人為的制御を可能にするCPSの開発」

MS前半期間の成果の一つである低施肥栽培でも収量性を担保できる新しい遺伝子アリルの創出技術は、トランスクリプトーム解析で絞り込んだ遺伝子のプロモーター改変と有用欠損系統の選抜ですが、選抜効率が低く改善が必要でした。そこで、本項目では、オミックスデータを駆使することで、任意の植物遺伝子の転写制御にかかる重要シス配列をサイバー空間情報から予測する技術を開発し、その有効性を研究期間の2年間のうちに実証し、CPS技術の深化に貢献します。

実施課題(担当機関)

 


項目4:「コムギに適用可能なCPSの開発」

サイバー空間における作物デザイン技術をコムギに適用するために、コムギ有用素材のゲノム情報や時系列遺伝子発現データ等のオミックスデータを用いたコムギデザイン技術を構築します。また、コムギの有用素材について鳥取大学乾燥地研究センターのレインアウトシェルターなどを用いて評価し、作物デザインモデルにフィードバックすることでコムギに適用可能なCPSを開発します。

実施課題(担当機関)